同じ怪我なのに、なぜ痛み方が違うのか。脳の中にある「痛みの音量つまみ」の話

同じ怪我なのに、なぜ痛み方が違うのか

同じ怪我なのに、なぜ痛み方が違うのか

「同じくらいの怪我なのに、あの人は平気そうで、自分はずっと痛い」——そんな経験はないでしょうか。実はこれ、気のせいでも、我慢が足りないわけでもありません。痛みの感じ方には、身体の組織の状態だけでは説明できない仕組みが関わっていることが、近年の研究で少しずつわかってきています。

今日は、その中心にある「脳幹」という場所と、痛みの「音量つまみ」の話を、できるだけわかりやすくお伝えします。

痛みは、痛い場所だけで決まらない

けがをすると、その場所から「痛い」という信号が神経を通って脳に送られます。ここまでは想像しやすい話です。

でも実は、その信号がそのまま同じ強さで「痛い」と感じられるわけではありません。信号が脳に届くまでの間に、身体の中には信号の強さを調整する仕組みがあり、そのときの体調や心の状態、過去の経験、周りの環境などによって、同じ刺激でも感じ方が変わることがあるのです。

つまり、「組織に問題がある=必ず強く痛む」「組織が治った=必ず痛みも消える」とは、必ずしも言い切れないケースがある、ということです。

同じ刺激でも、受け取り方は異なることがあります
同じ刺激でも、受け取り方は異なることがあります

誤解のないようにお伝えしておくと、これは「痛みは気のせい」「痛みは脳が作り出した幻」という意味ではありません。けがや炎症そのものはもちろん重要ですし、その信号を無視してよいわけでもありません。ただ、痛みの経験には、身体の組織以外の要素も関わっている、ということです。

脳幹という「音量つまみ」

この「痛みの信号を調整する仕組み」の中心にあるのが、脳の奥、脊髄と脳をつなぐ部分にある「脳幹」です。

脳幹の中には、痛みの信号を弱める方向に働く部分と、逆に強める方向に働く部分の、両方が存在することがわかっています。まるでオーディオの音量つまみのように、状況に応じて信号を「下げたり」「上げたり」しているイメージです。

痛みの情報を調節する仕組みは、弱める方向にも強める方向にも働くことがあります
痛みの情報を調節する仕組みは、弱める方向にも強める方向にも働くことがあります

私たちの神経系には、痛みの情報を調節する仕組みがあります。脳幹を含む神経ネットワークが、痛みの情報を抑制したり促進したりすることが分かってきています。

例えば、先に軽い痛み刺激を与えておくと、後から来る別の痛みが弱く感じられる、という現象が実験で確認されています。この現象を調べたヒトの研究では、脳幹の活動が活発な人ほど、痛みを抑える力が強い傾向があることが報告されています。

ただし、これは「脳幹を刺激すれば必ず痛みが消える」という単純な話ではありません。同じ脳幹の仕組みが、状況によっては逆に痛みを「強める」方向にも働くことがわかっているからです。

痛みを「弱める」ことも「強める」こともある

けがが治った後も痛みだけが続いてしまう——そんな経験がある方もいらっしゃるかもしれません。

この背景には、脳幹の「強める側」の働きが優位なまま残ってしまうことが関係している可能性が指摘されています。

2026 年に発表されたごく最近の研究では、超高精度の MRI を使って、痛みを抑える時と強める時とで、脳幹の中の複数の領域がそれぞれ異なる働き方をしていることが報告されました。また、150 人以上を対象にした 2025 年の研究では、同じ痛み刺激を受けても、痛みが弱まる人・変わらない人・かえって強まる人に分かれ、その違いが脳のネットワークの状態と関連していることが示されています。

さらに、「これをすれば必ず痛みが弱まる」と期待するだけで実際に痛みが弱まったり(プラセボ効果)、逆に「痛みが強まるかもしれない」と不安に感じるだけで実際に痛みが強まったりする(ノセボ効果)現象についても、脳幹の同じネットワークが関わっていることが報告されています。

つまり、痛みの調整力には個人差があり、同じ人の中でも状況によって「効きやすさ」が変わる——ということが、少しずつ科学的にも裏付けられてきているのです。

触れ方・動き・感覚と痛みの関係

この「音量つまみ」は、触覚や動きなど、日常のさまざまな感覚入力からも影響を受けることが研究されています。

例えばある実験では、ゆっくりと優しく触れる刺激と、トントンと軽く叩くような刺激を比較したところ、優しく触れた後の方が痛みの評定が下がり、脳幹の活動にも違いが見られたと報告されています。

また、平衡感覚(バランス感覚)に関わる刺激によって、痛みの感じ方が変化したという研究報告もあります。

ここで一つ、正直にお伝えしておきたいことがあります。「優しく触れる → 脳幹が働く → 痛みが弱まる」という一直線の仕組みが完全に証明されているわけではありません。研究はまだ発展途上で、「関連がありそうだ」という段階のものが多いのが実情です。ただ、身体への働きかけ方によって、痛みの感じ方が変わりうる可能性がある、ということは、複数の研究から見えてきています。

だから、「痛い場所だけ」を見ていては不十分な場合がある

硬くなった筋肉をほぐす、動きにくい関節を動かす——これらはもちろん大切なケアです。ですが、それだけでは説明しきれない痛みや不調があることも、また事実です。

痛みの感じ方には、身体の組織の状態に加えて、神経系がその情報をどう調整しているか、という視点が関わっています。だからこそ、「痛い場所だけを揉む」「硬いところだけを伸ばす」という発想だけでなく、身体全体の状態や動き方、感覚の使い方までを含めて見ていくことが必要になる場合があります。

揺らいでもまた戻れる身体へ

全身の姿勢・動き・バランスを確認する様子(イメージ)
全身の姿勢・動き・バランスを確認する様子(イメージ)

Conditioning Lab Tukipiste が大切にしているのは、「痛みを一切感じない身体」や「刺激に反応しない身体」を目指すことではありません。

私たちの身体には、もともと環境や状態に応じて感覚や痛みを調整する仕組みが備わっています。その調整する力そのものも含めて、身体全体を見ていく——これが、揺らいでもまた戻れる身体へ、という私たちの考え方です。

痛みや不調が続いているとき、それは「気合が足りない」からでも、「原因が脳にある」からでもありません。身体は、たくさんの要素が関わり合いながら、日々調整を繰り返しています。その仕組みに目を向けることが、次の一歩につながることがあります。

長野市で理学療法士が運営するコンディショニングラボとして、私たちは、痛い場所だけでなく、身体全体の状態・動き・感覚という複数の視点から、一人ひとりに向き合っていきたいと考えています。

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参考文献・参考情報


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● Crawford LS, Mills EP, Hanson T, et al. Brainstem Mechanisms of Pain Modulation: A within￾Subjects 7T fMRI Study of Placebo Analgesic and Nocebo Hyperalgesic Responses. J Neurosci. 2021;41(47):9794-9806. PMID: 34697093

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