
股関節の痛みに悩みながら、整体やマッサージ、鍼治療などいろいろ試してきたけれど、思うような結果が出なかった——そんな方に、特に読んでいただきたい話があります。
身体の使い方について、これまで考えたことがなかったという方には、なおさらです。
年齢を重ねる中で、腰痛や尿もれ、歩くときの股関節の痛みが重なり、「このまま歩けなくなってしまうのでは」という不安を抱えている方は少なくありません。
今回は、変形性股関節症の診断を受けたあと、運動に取り組まれた50代女性のお客様事例をご紹介します。
こんな不調で悩んでいませんか?
- 腰痛や尿もれ、歩くときの股関節の痛みが続いている
- 「このまま歩けなくなってしまうのでは」という不安がある
- すでに医師から診断を受けており、今後の見通しに不安を感じている
これまでの経過
デスクワーク中心の生活を送る50代の女性。
腰の痛み、尿もれ、歩行時の股関節の痛みが主な悩みでした。
これまで整体やマッサージ、鍼治療などで様子を見てきましたが、年々「歩けなくなる、動けなくなる」ことへの不安が強くなり、ご友人の紹介で当店へ来られました。
医師の診断とその後
すでに医師から変形性股関節症の診断を受けており、内服治療と電気治療を継続されていました。
日常生活での不調が大きくなる中で、医師からは今後の状態によっては手術も選択肢になり得ると説明を受けていたそうです。
来店時には、股関節を曲げる動き(屈曲)で90度付近から痛みがみられ、椅子に座る動作にも支障がある状態でした。
変形性関節症に対する運動療法は、国内外の診療ガイドラインでも保存的な選択肢のひとつとして位置づけられており、NICEでは個々の状態に合わせた治療的運動が推奨されています。
断定的な効果を示すものではなく、あくまで評価に基づく可能性としての位置づけです。
そうした中でご本人が当店の運動コースに関心を持たれ、医師の治療を継続しながら並行して取り組みを始めることになりました。
参考文献:日本整形外科学会・日本股関節学会編『変形性股関節症診療ガイドライン2016(改訂第2版)』南江堂、2016年5月/NICE. Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management (NG226). 2022年10月19日発行.
https://www.nice.org.uk/guidance/ng2266 / Bannuru RR, et al. OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis. Osteoarthritis and Cartilage. 2019;27(11):1578-1589.
いずれも運動療法を保存的な選択肢のひとつと位置づけていますが、構造的な変形そのものを治す、または進行を止める効果までは示していません。
最初の3ヶ月:ベッド上での身体の使い方から
歩行時にも股関節に痛みが出る状態だったため、まずはベッドの上で骨盤や背骨の使い方から取り組みを始めました。
仰向けの状態で足を浮かせる、寝返りをするといった動作にも不安があるところからのスタートでした。
月3〜4回のペースで、少しずつ「痛みが出にくい身体の使い方」を確認していきました。

※イメージ写真であり、実際のご本人ではありません。
変化のはじまり
取り組みを続ける中で、ベッド上での身体の使い方に変化がみられ、同じ時期に歩行時の痛みについても変化がみられるようになりました。
利用ペースを月2回に移し、身体を動かすことへの不安が和らいできたタイミングで、ご自宅での体操も取り入れていきました。
動きの精度を上げる段階
その後、より実際の日常動作や歩行につなげていくため、骨盤や背骨だけでなく、下肢と体幹が連動した身体の使い方にも取り組みを広げていきました。

あわせて、眼球運動や舌の位置、姿勢の指導も実施しました。
動きの土台となる脳幹や小脳の働きが、股関節の動きの精度にも関わっていると考えたためです。
歩行時の痛みへの恐怖感が強かったこともあり、前庭覚(バランス感覚)の評価も行い、身体の傾きを正確に感じ取れているかを確認しながら進めました。
体幹の使い方については、エコー(超音波)画像でご本人と一緒に確認しながら指導しました。
股関節を支えるための体幹の使い方も、アウターマッスル(表層の筋肉)に偏っている様子が見られたため、インナーマッスル(深層の筋肉)の働きを意識していただきました。
「身体って使い方ひとつで、こんなにも違う動きをするんですね。骨盤でも恥骨を意識してみたり、坐骨を意識してみたり、尾骨を意識してみたりするだけでも、痛みの出方が変わる。もっと早く知りたかった」というお話をいただいています。
支援するなかで感じたこと(当店の視点)
この方の場合、生活範囲が広がっていくお話をうかがう中で、来店時に見せてくださる表情にも変化を感じるようになりました。
痛みが出たときにほぐす、あるいは筋トレをするだけでなく、ご自身の身体の使い方を見つめ直すことで変化を感じられる方を、これまで他にも多く見てきました。それが、私たちが支援を続けるなかで大切にしている視点です。
生活の中での変化(ご本人の話)
この方は、動き方による痛みの出方の違いを少しずつ把握し、ご自身でも身体の状態を観察しながら生活されるようになりました。
ご本人のお話では、階段の昇降が楽になり、これまでご家族に頼んでいた力仕事にも挑戦できるようになったとのことです。
以前は難しいと感じていた遠方への旅行も楽しめるようになったといいます。

※イメージ写真です。特定の効果を保証するものではありません。
「ここに来るたびに、人の身体の面白さに感動します。趣味でフルマラソンや自転車の大会にも出ている主人に骨盤や背骨の動きを教えてあげたら、全然うまくできない姿を見て笑ってしまいました。今まで筋トレのアドバイスをしてくれていた主人なのに、これができないなんてとびっくりして。そうしたら主人も『その動き、マラソンや自転車に活かせそうだから逆に教えて』とアドバイスを求めてくるようになったんです。私自身、筋トレや柔軟性の前に、骨盤や背骨の使い方をうまくできることの方が、自分の痛みや不調には合っていたんだと分かりました。今まで股関節痛で動けなかったけど、生活範囲がすごく広がって、体重が変化したことにもびっくりです」
というお話もありました。
体重の変化やご本人の実感は、生活全体の変化に伴う個人的な感想であり、運動指導そのものの効果を保証するものではありません。
同じような方へ
変形性股関節症のように診断がついている場合、運動療法は手術の代わりというよりも、医師の治療と並行して取り組める選択肢のひとつとされています。
効果や経過には個人差があり、必ず医師のフォローを続けながら、ご自身に合った方法を探っていくことが大切です(参考文献は前掲のガイドライン各種)。
構造的な変形の治癒や進行停止、手術の回避を示すものではありません。
痛みや不調が続く背景について
柔軟性を上げる、筋力をつける——もちろんどちらも大切です。
ですが、痛みや動きにくさが続く背景には、それだけでは説明しきれない部分があることが、近年の研究で少しずつわかってきています。
脳の中心部にある「脳幹」という部分には、痛みの信号を弱める働きと、逆に強めてしまう働きの両方があることが報告されています。
特に痛みが長引くケースでは、この「強める側」の働きが優位なまま続いてしまうことがあり、その場合、けがそのものは治っていても、痛みや過敏さだけが残ってしまう可能性が指摘されています。
つまり、痛みや動きの不調は、筋肉や関節だけの問題ではなく、脳幹を含む神経系全体の「調整の状態」にも影響されている可能性がある——というのが、現時点の研究が示す一つの見方です。
まだ機序の解明が進んでいる段階であり、個々の症状の原因を断定するものではありません。
今回ご紹介したお客様事例でも、骨盤や体幹の使い方に加えて、眼球運動や前庭覚など神経系の視点からのアプローチを取り入れたのは、こうした背景があるからです。
見えている症状だけでなく、その奥にある調整の仕組みにも目を向けることで、広がる可能性がある——それが、当店が大切にしている視点です。
参考文献:Chen Q, Heinricher MM. Shifting the Balance: How Top-Down and Bottom-Up Input Modulate Pain via the Rostral Ventromedial Medulla. Frontiers in Pain Research. 2022;3:932476. doi:10.3389/fpain.2022.932476. PMID: 35836737
Vera-Portocarrero LP, Zhang ET, Ossipov MH, et al. Descending facilitation from the rostral ventromedial medulla maintains nerve injury-induced central sensitization. Neuroscience. 2006;140(4):1311-1320. doi:10.1016/j.neuroscience.2006.03.016. PMID: 16650614
Wei F, Dubner R, Zou S, et al. Molecular depletion of descending serotonin unmasks its novel facilitatory role in the development of persistent pain. Journal of Neuroscience. 2010;30(25):8624-8636. doi:10.1523/JNEUROSCI.5389-09.2010. PMID: 20573908
脳幹が痛みの信号を調整する仕組みについて、
「同じ怪我なのに、なぜ痛み方が違うのか。脳の中にある『痛みの音量つまみ』の話」
という記事でさらに詳しく解説しています。
▶ 関連記事:同じ怪我なのに、なぜ痛み方が違うのか。脳の中にある「痛みの音量つまみ」の話
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本記事は、ご本人の同意を得て特定されない形でご紹介した個別の体験であり、特定の効果や改善、進行の停止を保証するものではありません。変化の内容や感じ方には個人差があります。私たちはコンディショニングの専門であり、病気の診断・治療を行う立場ではありません。診断・治療方針については、必ず医師の指示に従ってください。